大阪地方裁判所 昭和40年(む)334号 決定 1965年8月14日
主文
昭和四〇年八月一四日大阪地方裁判所裁判官上田耕生が恐喝未遂被疑事件につき被疑者中島秀行に対して発した勾留状中昭和四〇年八月八日迄勾留することができるとの部分を取消す
理由
一、<省略>
二、そこで勾留期間を五日間とする原裁判の当否について判断する。刑事訴訟法第二〇八条第一項によれば、被疑者の勾留期間は一〇日間であることは明らかであつて、右は犯罪を捜査して、公訴を提起すべきか否かを決定するについて、被疑者の身柄を確保するために認められているものと解されるところ、もし右期間中に犯罪捜査が終了して公訴提起のための身柄確保の必要が消滅すれば、検察官において直ちに被疑者を釈放するための措置をとるべきは当然のことであり、一方裁判官としても、被疑者につき勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたことが判明したときは職権によつてでも右勾留を取り消さなければならないことも、また同法第二〇七条第一項、第八七条第一項によつて明らかである。しかして勾留の必要性の程度に応じ、勾留期間も一〇日を要しない事案も多いことは勿論であるから、必要性の消滅した場合に、勾留取消を行う代りに事前にその必要性の大小を予測し、これに見合う勾留期間を一〇日より少く定めておくという必要性も、司法的抑制を効果あらしめ、人権尊重に資するという見地から、考えられないではない。しかし犯罪捜査は、検察官等の捜査官が行うものであつて、勾留請求を受けた裁判官は、これに関与しないし捜査の進展に伴い予想外の事実があらわれることもあるのであるから、裁判官が、右犯罪事実の捜査に幾日を要するかは極めて予測困難であり、従つて裁判官において、一方的に予め勾留期間を法定の一〇日未満の任意の日数に定めることは、前記明文に反するばかりでなく、犯罪捜査を不完全ならしめるおそれもまた多々あるといわばなけれならない。もし勾留期間中において、被疑者の身柄を拘束する必要がなくなれば、前記のとおり裁判官において勾留取消の措置を講ずることによつて、司法的抑制の機能は発揮されうるのである。されば勾留請求を受けた裁判官につき勾留期間延長の場合は格別、法定の一〇日の勾留期間を短縮しうる権限を認めるべき規定もない現行刑事訴訟法の下においては、裁判官がその裁量により右勾留期間を短縮することは違法であるといわざるを得ない。
以上の次第であるから、本件準抗告の申立は理由があるので、同法第四三二条第四二六条第二項により主文のとおり決定する。(石原武夫 森岡茂 安藤正博)